荒れ泥む町の街路にしゃがみ込み物の準備に勤しむ女
Getting Ready

2007年5月9日
 黙しながらも通り掛かりの者の目に語るその指の動きは、街路の片隅にひとりその身を縮める孤影のゆらぎとともに、曇り空のわずかな色を返す路上にただ微音を奏でていた。

 そこはイーストサイド(Eastside)と呼ばれる街のかど。

 北米(ほくべい―North America)に実り豊かな自然の恵みに育まれる大地―カナダ(Canada)の国土の西のはずれで大いなる海を見据えるバンクーバー(Vancouver)の都市の辺境のこの街は、ダウンタウン(downtown)―荒廃極まり、陽のもとに暮らす人々のその足取りの歩み寄りを拒絶しつつ、家なき者たち精神に病(やみ)を抱えた者たち娼婦(しょうふ―prostitute)たち―暗闇のうちを蠢く者たちに生活の処を与える。

 同居しながらに犯罪窟を織り成す数多の住人たちは、多くが―その身に潤いの時をもたらす薬(くすり)を愛でながら、それぞれの今日を、それぞれの今をそこに暮らしている。

 ・・・彼女もそうした者たちのうちのひとり―荒れなずむ町の、家なき薬物中毒者(drug addict)であった。

 大麻(たいま―Cannabis)にコカイン(Cocaine)、・・・そしてヘロイン(Heroin)にメタンフェタミン(Methamphetamine)、など、など、・・・、ありとあらゆるドラッグの蔓延するこの街にあって、そうして今まさにそこで用意するものは何なのか。いずれにあろうと―かかる刹那の潤いの時は裏切ることなく、すぐそこに―口を開いて待っている―もうすぐそこに―。

 寒空の荒ぶ季節も過ぎて、漏れ日のあたたかに溜まる日々へとしだいにうつろいゆく頃だった。


|カナダ|世界採集写真館

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