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遥かなる太平洋(たいへいよう)の大海原を東に見据える海辺の村―もはや南洋と言えもするその村、台湾島(たいわんとう)の南の外れに広がる台東県(たいとうけん)のそのまた東の外れにある村、都蘭(とらん)は夏の季節を迎えてしばらくの暑さの盛りのときにあった。 人の世にもはや忘れ去られて久しくあるような―陽の光のそそぐ昼時にあっても、寄せてはまた返す波の音だけがただ静かに響きわたるところ。そんな村がまた迎えた夏の日、幼女は昼下がりを過ごしていた。 正午を過ぎたばかりのそのとき。その唇(くちびる)は少しばかりか赤く腫れていた。それは口角炎(こうかくえん)のいたずらであることを、旅人の傍観の目に思わせた。 都蘭は台湾のまさに辺境といえるところに―この島に生きる原住の民々の、そのうちの阿美族(アミぞく)の民が暮らしの多くを織り成す東河郷(とうかきょう)の地にある。 常世に穏やかに在り続けてきた静かな海辺の村に、今日の日も過ごす幼女の静かで穏やかな昼のひととき―幼い夏の日がそうしてまた過ぎてゆく。巡ってはまた巡りゆく悠遠の時のなかで、同じように、そう同じように、いつかの幼い者たちがここに過ごしたいつかの夏の日のように。
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