|
神無月(かんなづき)のはじめの湖国(ここく)の古都は、太古のお宮の祭礼を担うたけたかな祭(まつり)のうちに賑わう。 滋賀県(しが-)、この地にあって大いなるたまみずをつくる遥かな大みずがめ、琵琶湖(びわ-)。湖西(こせい)ともまた湖南(こなん)ともいう、比叡山(ひえいざん)のその東方に置かるいにしえの都、大津市(おおつ-)の秋口、大津祭(おおつまつり)は名のある祭で、江戸(えど)の古来からこの地にやむことなく連綿と続いてきた。 往時の面影を今に留める旧市街を練り歩いてゆく行列。そのなかを幼い者達がまた、いわゆる稚児(ちご)の行列、いうて稚児行列が天冠(てんかん)と名づく優美な冠(かんむり)を頭にのせて、巫女(みこ)の装束に包んだ身をあからかにしては、たまたえに進んでゆく。 幼女はそのうちのひとりだった。まわりの者達とそろいのすがた、位星(くらいほし)を額にほどこして、ときの装束に身を飾る。 たもとおるようにちからづよく、たとえなきように凛と澄んだ、またしてどこか―どこかたまゆらの闇を宿したようなる瞳は、妙(たえ)の今宵に向こうて過ぎゆく祭礼にかかるひとときにあって、まなざしの先に何を見る。 近江(おうみ)の古国の秋入りを飾る大祭は、国に御鎮座まします天孫(てんそん)の宮に奉じ上げられ、壮麗なだしの数々とともに宵闇のはれに向かってゆく。 たまのうてなにしらがれる空や。すずかぜの撫でる街路に、すずろの巫幼女(みょうじょ)のこころのそらかようにありましたか、いつよの神無月。
|