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八月も半ばを過ぎて彩ノ月(いろどりのづき)に近づこうとする頃の摂津(せっつ)の郷(さと)の奥座敷、・・・神戸(こうべ)の町を見下ろす六甲山(ろっこうさん)の峰の裏庭にたたずむ温泉郷(おんせんきょう)―有馬温泉(ありま-)は、年を通して途切れの暇もなくそこに賑わいの声をたたえる。 神代(かみよ)の古に興りを見たと伝えられもするこの名湯の郷は、西暦のもとの六世紀から七世紀と云われる頃に時の帝(みかど)の御来訪を見てからというもの、この八洲(やしま)―日本(にほん)の三古湯(さんことう)、・・・愛媛(えひめ)は松山(まつやま)の道後温泉(どうご-)、和歌山(わかやま)は南紀(なんき)の白浜温泉(なんきしらはま-)と並び称されてきた。
そうした歴史深き有馬温泉の泉源(せんげん)のひとつ―御所泉源(ごしょ-)は、天神泉源(てんじん-)、有明泉源(ありあけ-)、極楽泉源(ごくらく-)、 妬泉源(うわなり-)、・・・これら金泉源(きん-)と、そして太閤泉(たいこう-)、炭酸泉源(たんさん-)、・・・これら銀泉源(ぎん-)とともに、湧き出でてはかの温泉の街に常世の温もりを与えている。 葉月(はづき)に燻らせのぼる御所泉源の夏の日の湯煙(ゆけむり)、・・・庭園(ていえん)のなかの口からのぼり立つその香りが、宿(やど)に旅館(りょかん)に土産物屋(みやげもの-)―日帰りの末の、長旅の末の、・・・旅人たちの胸に秘められたそれぞれの色の旅情をたたえる温泉郷の街路をゆらり、風流のしらべのなかに包み込んでゆく。 今日の日もまた明日の日もそこに季節の彩をたたえながら。
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